好きな人ができたと。一年前から、好きな人がと。
そういって簡単な荷物を大きなボストンバッグに詰め込んでレオは玄関に置いた後、棚に飾っていた俺のカメラを手に笑って言った。
「別れる記念。写真を撮ってくれよ。」
「・・・・・いいけどよ。」
俺がカメラを受け取りながら答えると「場所はこのへんでいいか?」とソファーの前で聞いてくるから「どこでもいいよ」というと少し怒ったような顔をされた。
「じゃあ、撮るぞ。」
そういってカメラを向けて、レンズを覗くと納得のいかない被写体が写った。
「おいおい、なんだよその硬ぇ面。もっと笑えよ。」
「こ、こうか?」
へたくそな笑みを浮かべるレオに「そうそう」とシャッターを切った。
「もう少しこっち、そうそう」
何枚か写真を撮って、次は庭へと出た。
「あの辺に立ってみろよ。」
家の柱を指差すと、レオはその柱に寄りかかった。
「ちょっと遠く見るような感じで。ん、あぁもうちょっと、こう」
レオの顔に手を当て角度を変える。
こっちを向くように、ちょっとだけ。
「いいぞ、あぁ。もうちょっとこっち。もっと俺を見つめて。もっと俺を見ろよ。」
何枚も 何枚も シャッターを切る。
何枚も 何枚も 何枚も 何枚も
そしてレオの表情が笑みじゃ無くなったのがレンズ越しに見えて、撮るのを止めた。
「・・・・じゃあ、俺、行くな。」
玄関に向かうレオを見つめることができなかった。
カメラを握り締めて、ただ、どこでもない。宙を見つめていた。
そして一言だけ搾り出した。
「わ、すれもの、すんじゃねぇぞ。」
「え?俺、また何か忘れてるか?」
レオが焦る様に言うのを見て少し心に何か、期待のカケラが生まれた。
振り返って玄関に立つレオに叫んだ。
「お前がいつも忘れ物すんのはよ!やっぱり出て行きたくねぇからなんだろ!?そうだ!そうだよ!」
行く訳が無い!とばかりに叫んで、レオの顔をみて、口を閉じた。
レオの眼差しに言葉が出なくなってしまった。
「・・・・・・・・さよなら、だな。」
そういって荷物を持って、レオが出て行く背中に怒鳴った。
「好きな奴ができたからってなんだよ!そんなので別れるなよ!!そんなことくらいでよぉ!!!」
また希望ができないかと、それを願って大声を出したが、何の音も聴こえはしなかった。
暗室で昔の、懐かしい写真を現像してる間、ずっとあいつとの出来事が頭を駆け巡った。
子供のころからの事とか、一緒にバイクで旅に出てみたりとか、あいつと歩いた事とか。
以前ある観光地にあいつと行ったことがある。
船の上であいつは
「今回は喧嘩は無しだぞ?」と言ってきたもんだから「お前が仕掛けてこなけりゃなぁ」とそっけなく返した。
そして現地につくとあいつはしょっちゅう「出かけよう」だの「残さず食べろ」だの延々と言っていた。
そのたびに俺は寝るか、「お前にゃ関係ねぇだろ!」と返したものだ。
暗室から出て、自室の扉をゆっくり開けた。
「・・・・本当に出て行ったと思ったか?」
ベッドの上に腰掛けてこっちを向いて笑うレオの隣にゆっくりと座った。
レオは軽い笑みを浮かべて楽しそうに窓の外を見つめていた。
俺の隣でのんびりと。
レオの顔を見つめながら声を出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ」
「ん?」
「お前 なんで死んだんだよ。」
旅行に行ったときに、ホテル近くの海岸が見える原っぱでレオは言った。
「なぁ、」
「あぁ?」
寝転がりながらレオを顔を見るとレオが少し笑いながら言った。
「別れる記念。写真を撮ってくれよ。」
「あぁ?カメラねぇよ。」
「そういうと思って・・・・もってきてたんだ!」
かばんから取り出したカメラをため息つきながら受け取ると「場所はこのへんでいいか?」と垣根の前で聞いてくるから「どこでもいいよ」というと少し怒ったような顔をされた。
「・・・じゃあ撮るぞ」
「あぁ・・・・・・!ちょ、ちょっと待ってくれ!」
いきなり慌てだすレオになんだとばかりに顔をしかめて聞いた。
「腕輪が無い・・・!」
「あぁ?もう別れるんだからいらねぇだろ?」
付き合い始めたときにおそろいで、と買った銀の腕輪を探してレオは腕を撫でた。
「ホテルに置いてきたみたいだ。悪い、ちょっと待っててくれ。」
「あー?」
「すぐもどる!」
駆け出すレオの背中に「早く戻ってこいよ!」「出発時間もうすぐなんだからな!」と叫んだ。
それに腕を上げて返事するレオの背中を、見つめて、少し駆けて、その背中に向かってカメラのシャッターを切った。
「おっせぇ・・・・・・・」
ホテルまで目と鼻の先だと言うのに、レオはなかなか戻ってこない。
どれだけ探してるんだと呆れつつ、俺も行くべきかと考えていると、ふいに横の道路を救急車が走っていった。
何か心にゾワッした黒いものが駆け巡った。
カメラを垣根に置き、その救急車が向かった方向に駆け出した。
何か、何か!嫌な、知りたくない、そんな何かが体から離れない。
着くと救急車が病院に向かってか走り出したところだった。
息を整えつつそれの背を見送り後ろへと振り返った。
停車した車。パトカー。やじうま。割れたガラス。夥しい量の血。
レオの履いていた靴。
「あぁあぁ・・・・ドナテロも結構繊細なんだ、そう怒鳴ってやるなよ。」
クリスマスの命日。一年前に、亡くなったその日。
ドナテロに諭されて、カッとして怒鳴って、ドナテロが出て行って・・・・・・
「・・・・・・・・悪い。」
「俺に謝ってどうするんだ。」
階段に座りながらレオは呆れたように言った。
その隣の床に腰を下ろしてうつむいた。
「・・・・・・なぁ、窓辺に座ろう。」
レオに言われて、椅子に掛けていた毛布をもって窓辺に座るレオの隣にしゃがみ、二人を覆うように毛布を被った。
「・・・・・雪だな。」
「あぁ・・・・・」
「・・・・・なぁ。」
「ん?」
「このままじゃ、いけないよな。」
レオの言葉に毛布の端を握り締めた。
「じゃ、あ・・・・どうしたらいいんだよ・・・」
「それはお前がよく、わかるはずだろう?」
肩にもたれかかりながらレオは優しい声で言うと、立ち上がった。
「どこ行くんだよ・・・・!」
思わずその手を握り締めて止めた。
「どこにも行くなよ、俺のそばにいろよ。」
「・・・・・・・・」
レオは無言で少し笑うだけだった。
思わず立ち上がりその体を抱きしめた。
「俺・・・お前がそばにいるだけで楽しかったんだよ・・・・・!喧嘩してもなにしても・・・!そばにお前がいてくれるだけで俺はいいんだよ・・・・!」
「ラフ・・・・・」
「俺お前の言うことちゃんと聞くからよ・・・!ちゃんと掃除もするし、お前と散歩にも行く!お前の入れるにんじん茶だってちゃんと飲んでるから・・・・!だから・・・・俺のそばにいてくれよ・・・・!」
必死にその肩を抱いて、その感覚を確かめるように必死に言った。
「お前が俺をそんなに好きだったなんてな・・・・・・・馬鹿だなお前は・・・・どうして、生きてるうちに言ってくれなかったんだ・・・・・」
軽く肩を殴りながら、レオは、搾り出すような声で言った。
涙がどんどん溢れ出すのを止められず、ただひたすらレオの体を掻き抱いた。
顔にキスをして、首に顔をうずめて、ここにレオがいるのを確かめるように。
「・・・・・・・ラファエロ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
少し俺の体を押してレオはまっすぐに見つめて来て、小さく呟いた。
「・・・・ありがとう・・・・」
目を開けると、自分の体を抱きしめていた。
部屋を見渡し、「レオ?」と呟くも何の返事も無かった。
キッチンからも、二階からも。そして玄関からも。
ソファーに座り玄関を見つめる。
レオがあそこから、顔を出して、部屋の汚さに文句を言いながら「ただいま」と帰ってくるんじゃないか。
クリスマスツリーを飾らないかと少し恥ずかしそうにして言ってくるんじゃないか。
キッチンからにんじんのお茶を持ってくるんじゃないか。
頭をよぎる全ての希望も、やがては一つの結果へとたどり着いた。
とめどなくあふれる涙を止めることはできなかった。
「帰ってこいよ・・・・・帰ってこいよぉ・・・・!」
ただひたすらに泣き続けていると玄関が開く音がした。
ありえない希望をかすかに抱きながら振り返るとドナテロが顔を出した。
「・・・・・・・ケーキ。食べてなかったよな。」
昔のレオの話をして、呑みにいくことにした。
ローソクをたてたケーキは帰ってきてからだ。レオはローソクの火を消すのがなんだかんだで好きだった。と笑った。
ドナテロに先に行っててくれと言って、一人になって。
静かにケーキのローソクに火を灯した。
その向かいのソファーではレオナルドが少しワクワクしたような瞳でケーキを見つめているのが薄く見えた。
「・・・・・消すぞ。」
数本の火が消えるとレオは薄くなり、また数本消すとレオはさらにその姿が薄くなった。
そして、最後の一本が消えると、穏やかな笑みを浮かべたレオは姿を消した。
棚の上に飾ったカメラを持ち、その隣に飾った、以前撮ったレオの写真を見つめて目を閉じた。
「行って来る。」
なんかもうよくわからなくなってますねwww
ぜひ「今度は愛妻家」を見ていただきたいです。
タオル装備は必須です。
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